国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学

プレスリリース

2018年9月19日
Press Release

英語の教育・研究を効率化する最小英語テスト「MET」を初めて体系化、TOEICやセンター試験などの長時間英語試験の1万人以上のデータで相関係数を検証

岐阜大学地域科学部 牧 秀樹 教授がMET研究の成果を初めて体系化した書籍を刊行

岐阜大学地域科学部 牧秀樹教授は、日本学術振興会の科学研究費助成事業の研究成果公開促進費(学術図書)(18HP5064)の補助を得て、初めて“The Minimal English Test”(以下「MET」)研究の成果 […]

岐阜大学地域科学部 牧秀樹教授は、日本学術振興会の科学研究費助成事業の研究成果公開促進費(学術図書)(18HP5064)の補助を得て、初めて“The Minimal English Test”(以下「MET」)研究の成果を体系化した書籍『The Minimal English Test(最小英語テスト)研究』(開拓社)を2018年10月23日(火)に刊行します。本書にはMETの問題英文とCDも収載しています。

牧秀樹教授が開発したMETとは、A4用紙1枚に約70の単語の空所を設けた、5分程度の単語穴埋め式リスニングテストのことです。図1は、2002年から2009年まで使用したオリジナルのMETの一部です。牧教授は16年間かけて、1万件以上のデータを蓄積し、長時間の英語試験スコアとMETスコアを比較しました。各試験スコアとMETスコアとの相関係数※1)は、センター試験で0.53~0.72※2)、TOEICで0.58~0.74、Paul Nation’s Vocabulary Size Testで0.70~0.81と、高い相関があります。METは英語の教育・研究を効率化し、学習者にもメリットがあります。中学生向けのMET(jMET)も開発しており、さらには、英語以外の外国語学習にも応用可能です。図2は、2002年センター試験英語 (CT 2002) スコアとMETスコアの相関を、図3は、中学3年2学期期末試験英語スコアとjMETスコアの相関を示しています。

※1)相関係数(r)は、0 < r < 1の範囲にあり、0.4 < r < 0.7(相関がある)、0.7 < r < 0.9(強い相関がある)、 そして、0.9 < r < 1(極めて強い相関がある)と解釈されています。
※2)2002年~2009年は「MET4」で比較、2009年以降は「MET6」で比較。MET4とMET6については後述。

 

●METの作成規則
METにはいくつかのバージョンがあります。2002年~2009年は4文字以下の単語だけをターゲットとし、各行に2か所の空所を設けていました(MET4)。2009年以降、単語の文字数に関わらず6単語目ごとに機械的に空所を設けています(MET6)。MET6の問題作成規則は次の2点です。
a.6単語目ごとに、空所が設けられる。
b.空所を設ける際、固有名詞、ハイフンで繋がれた長い語、数字、日本語、年、括弧の中にある発音されない語は、除外される。

 

●METのメリット
METは英語の教育者、研究者、学習者のそれぞれにメリットがあります。

<教育者にとって>
①問題作成が容易
6単語目ごとのランダムな穴埋め問題であるため、使える文書と音声データさえあれば、教員が簡単にテスト問題を作成できる。同じ英文から複数バージョンの問題作成も容易。

<研究者にとって>
②信頼性が高い
これまでに16年間かけて、1万件以上のデータを蓄積し、METのスコアとTOEICやセンター試験などの長時間の英語テストのスコアとの相関を調査しているため、英語能力を評価する指標として信頼性が高い。

③短時間でデータが得られ、測定が容易
5分程度の短時間で実施できるため、英語能力のデータや研究データを取得するのも容易。被験者の疲弊を回避でき、実験者の手間を削減できる。外国語学習・教育の効果を測る際の指標としても用いることができる。

<学習者にとって>
④生徒のやる気を引き出す
生徒がゲーム感覚でスコアを伸ばそうという気になりやすい。

⑤問題を解くだけで学習効果が期待できる
空所の位置が異なる別バージョンの問題を繰り返し解くだけで正答率が上がるため、学習効果が期待できる。

 

●METスコアと長時間の英語試験スコアとの相関係数
METスコアと長時間の英語試験のスコアとの相関係数は次の通りで、0.53~0.90と高い相関が示されています。なおMETの異なるバージョンでのスコア比較のデータもありますが、割愛します。

 

●MET開発の経緯
牧教授は1995年から米国のセイラム-テイキョウ大学でアメリカ人に日本語を教える中で、小林典子教授を中心とする筑波大学のグループが日本学術振興会の科学研究費助成事業(科研費)で制作した「簡易型日本語運用能力測定試験(SPOT: The Simple Performance-Oriented Test)」の存在を知りました。同グループは、留学生に、日本語能力を測定するためのプレースメントテスト(所要時間150分)とSPOT(所要時間数分)を実施し、両試験のスコアの相関係数を調査したところ、0.82~0.86と極めて高く、SPOTは、長時間を要する試験の結果を予測でき、ひいては外国語能力の簡易な評価指標にできる可能性を示唆しました。しかし、SPOTは科研費で制作されていたため、牧教授は利用することができず、SPOTを参考に、独自に『Yookoso!』という日本語学習者用の教科書をもとに、最小日本語テスト(MJT: The Minimal Japanese Test)を作成しました。このMJTを日本語学習者に実施したところ、MJTスコアと日本語能力試験3級スコアとの相関係数が0.87であり、MJTが日本語能力試験3級の獲得スコアの予測に使用できることが判明しました。
2002年に牧教授は岐阜大学に移り、成美堂の『This is Media.com』という大学1年生向けの教科書から、SPOT/MJTの手法を参考に、英語学習者用のMETを作成しました。以降、問題作成方法も試行錯誤しながら、センター試験英語のスコアやTOEICのスコアとの相関データを蓄積してきました。その過程で、中学生版として、東京書籍の『New Horizon』と三省堂の『New Crown』に基づきjMET(The junior Minimal English Test)も作成しました。
筑波大学グループのSPOTは、ひらがな1文字の穴埋め問題でした。そのため、当初METを作成する際は、4文字以下の英単語だけをターゲットにし、空所にしていました(MET4)。2002年から2009年まではこのバージョンで研究をしてきました。ところが、他の研究者からの次のような質問が寄せられました。「4文字以下の単語だけを空所にするのはなぜか、5文字以上の語で調査したことがあるか」、「4文字以下の語でも空所にした語としなかった語があるが、どういう基準で選んだのか」、「同じ語を空所にした場合とそうでない場合を比較したか」、「選ばれた2つの空所の語の距離はどの程度が適切か」。手持ちのMETでは、これらの質問について、理論的な説明ができませんでした。そこで2009年から、単語の文字数に関わらず、ランダムに6単語目ごとに空所とする形式にしました(MET6)。なお、空所の間隔は8単語目ごと、10単語目ごとについても試したところ、主要英語テストのスコアとの相関係数に違いは見られませんでした。

●「MET研究」の集大成となる書籍『The Minimal English Test研究』(開拓社)刊行の意義
これまでMETに関しては何度か論文等で発表してきましたが、METの全体像を体系化してまとめたのは本書が初めてです。また、今までに海外の研究者を含め、10人以上の英語教育者・研究者からMETを使わせてほしいと依頼がありましたが、その都度、元の英文の版元(「This is Media.com」、成美堂)に確認をして許可を得る必要がありました。そこで、本書に収載しているMETの問題英文とCDについては、予め著作権者である成美堂と著者の川名典人氏・Stuart Walker氏の許可を得て、誰でも自由に使うことができるようにしてあります。さらには、大学入試センターより正式に許可を得、過去の大学入試センター試験英語聴解問題を利用した新たなバージョンのMETも作成し、その問題英文とCDについても、誰でも自由に使用できます。図4に、2009年から現在まで使用しているMET(= MET6)の全体を示します。

 

●書籍について
タイトル:The Minimal English Test(最小英語テスト)研究
著者:牧 秀樹(岐阜大学地域科学部教授)
出版社:開拓社
定価:3,800円+税
METの問題英文とそれに対応するCDも収載

 

【研究者プロフィール】
牧 秀樹  岐阜大学 地域科学部 教授(言語学、英語)

<略歴>
1992年9月~1993年5月 米国コネチカット大学 現代語・古典語学科 講師(日本語)
1994年9月~1995年5月 米国コネチカット大学 現代語・古典語学科 講師(日本語)
1995年8月~1999年8月 米国セイラム-テイキョウ大学 日本研究学科 助教授(日本語入門~上級、日本語分析、比較言語学)
1999年8月~2002年3月 米国セイラム-テイキョウ大学 日本研究学科 准教授(日本語入門~上級、日本語分析、比較言語学)
2002年4月~2007年3月 岐阜大学 地域科学部 助教授(言語学、英語)
2007年4月~2017年11月 岐阜大学 地域科学部 准教授(言語学、英語)
2017年12月~現在 岐阜大学 地域科学部 教授(言語学、英語)

<METに関する主な論文>
・牧秀樹・和佐田裕昭・橋本永貢子 (2003) 「最小英語テスト (MET):初期研究」 『英語教育』 53.10, 47–50.
・Goto, Kenichi, Hideki Maki and Chise Kasai (2010) “The Minimal English Test: A New Method to Measure English as a Second Language Proficiency,” Evaluation & Research in Education 23.2, 91–104.
・Hasebe, Megumi, Juri Yoshimura, Hideki Maki and Hiromasa Hamatani (2010) “The junior Minimal English Test (jMET) for the 8th and 9th Graders,” Proceedings of the Second Annual Asian Conference on Education 2010 Conference, 1253–1264.
・Hasebe, Megumi and Hideki Maki (2014) “Acquisition of the Wh-Interrogative Construction by Japanese Junior High School EFL Learners,” Selected Proceedings of the 2012 Second Language Research Forum: Building Bridges Between Disciplines, ed. by Ryan T. Miller, Katherine I. Martin, Chelsea M. Eddington, Ashlie Henery, Nausica Marcos Miguel, Alison M. Tseng, Alba Tuninetti and Daniel Walter, 76–88, Cascadilla, Somerville, MA.
・Maki, Hideki, Kengo Suzuki, Megumi Hasebe, Shogo Tokugawa, Ru-Wen Zhang, Ling-Yun Fan, Jessica Dunton and Chise Kasai (2013) “The junior Minimal English Test: A New Crown Version,” Proceedings of the Chubu English Language Education Society 42, 147–152.
・牧秀樹 (2015) 「The Minimal English Test(最小英語テスト)の有用性」 長谷川信子編 『日本の英語教育の今、そして、これから』 300–316 , 開拓社, 東京.

 

<主な著書>
・Maki, Hideki and Dónall P. Ó Baoill (2011) Essays on Irish Syntax, Kaitakusha, Tokyo.
・Maki, Hideki and Dónall P. Ó Baoill (2017) Essays on Irish Syntax II, Kaitakusha, Tokyo.
・Maki, Hideki, Lina Bao and Megumi Hasebe (2015) Essays on Mongolian Syntax, Kaitakusha, Tokyo.
(上記著書は、それぞれ、日本学術振興会の科学研究費助成事業の研究成果公開促進費(学術図書)(235083, 17HP5074, 15HP5066)の補助を得て出版されています。)