国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学

プレスリリース

2018年3月20日
Press Release

従来よりガン誘発リスクを低減できるiPS細胞誘導方法の特許を米国で取得

岐阜大学大学院医学系研究科 手塚建一准教授らの研究グループ

iPS細胞を作製する際に用いられる4因子(山中因子;OCT3/4、SOX2、KLF4、c-MYC)のうち、c-MYCにはがん誘発リスクがあることが知られています。2011年に岐阜大学大学院医学系研究科 組織・器官形成分野 […]

iPS細胞を作製する際に用いられる4因子(山中因子;OCT3/4、SOX2、KLF4、c-MYC)のうち、c-MYCにはがん誘発リスクがあることが知られています。2011年に岐阜大学大学院医学系研究科 組織・器官形成分野の手塚建一准教授らの多施設共同研究グループは、歯髄細胞からiPS細胞を樹立する研究の過程で、c-MYCの代わりにDLX4を用いることで、がん誘発リスクを低減し、c-MYCと同等の効率でiPS細胞に誘導できることを発見しました(図1~図4)。この研究成果は2014年に”SCIENTIFIC REPORTS”に掲載※1され、DLX4等を用いたiPS細胞作製方法は国内※2および国際出願※3をしていました。このたび、この特許が米国※4で成立しました。欧州でも近く特許が成立する見込みです。今後、手塚准教授はDLX4を含む遺伝子ベクターセットを製造販売する協力企業を募り、国内外の研究機関や医療施設に提供する考えです。

なお、手塚准教授は3月22日にパシフィコ横浜で開催される第17回再生医療学会総会のテクノオークションにおいて、「捨てられる歯からiPS細胞~安全な再生医療を世界に届けるために~」と題した本特許に関する発表を行います。

図1:c-MYCの代わりにDLX4を用いるiPS細胞誘導方法

図2:歯髄細胞の初期化において、OSKM(c-MYCを含む山中4因子)を用いた場合と、OSKD(c-MYCをDLX4に代替)を用いた場合は、ES細胞様コロニーがほぼ同じ数出現した。

図3:ヒト繊維芽細胞の初期化においても、歯髄細胞のときと同様に、OSKM(c-MYC)を用いた場合とOSKD(DLX4)を用いた場合に、ES細胞様コロニーがほぼ同じ数出現した。

図4:歯髄細胞の初期化において、OSKM(c-MYC)と比べてOSKD(DLX4)を用いた場合は、同じ程度の量のiPS細胞を誘導したうえで、正常でないコロニーの発生を防ぐことが示された。

 

  • 発見の経緯:歯髄細胞の研究

岐阜大学医学系研究科の組織・器官形成分野と口腔病態学分野では、これまで10年以上にわたり、ヒト歯髄細胞を集め、日本人向けの再生医療に活用するための歯髄細胞コレクションの設立に取り組んできました※5,6。その過程で、手塚准教授は2008年には京都大学の山中伸弥教授との共同研究で、歯髄細胞は皮膚繊維芽細胞に比べて、iPS細胞誘導効率が高いことを発見※7し、「効率的な人工多能性幹細胞の樹立方法」として特許※8を取得しました。そして、歯髄細胞からiPS細胞を樹立しやすい原因となる遺伝子を探索してきました。
手塚准教授らはこれらの研究の中で、10代の人から採取した歯髄細胞は、20代以上の人から採取した歯髄細胞よりもiPS細胞を樹立しやすく、また10代の人の歯髄細胞ではDLX4遺伝子が顕著に発現していることに着目しました。そしてDLX4がiPS細胞の誘導効率を高めていることを突き止めました。この研究成果の論文が“SCIENTIFIC REPORTS”に掲載され※1、今回の特許取得に繋がりました。
なお、岐阜大学では「HLAハプロタイプホモ歯髄細胞ストック」を推進するために、2016年2月に「岐阜大学しずい細胞プロジェクト」を発足しました。

(参考)岐阜大学しずい細胞プロジェクト
岐阜大学は、これまで医学系研究科の組織・器官形成分野と口腔病態学分野が協力して取り組んできた「歯髄細胞バンク」を推進し、日本人全体をカバーしうるiPS細胞ストックに貢献するために、2016年2月4日に岐阜大学学長の森脇久隆が会長となり本プロジェクトを発足しました。本プロジェクトでは、産学協同のベンチャー企業を設立し、歯髄細胞を研究機関や医療施設などに提供する事業収益を得ることで、他家iPS細胞移植医療に必要な「HLAハプロタイプホモドナー※9」の歯髄細胞の収集・活用を進める計画です。
<岐阜大学しずい細胞プロジェクトの目的>
・日本人歯髄細胞の収集:日本人の約100人に1人出現する、ヒト白血球抗原(HLA)をホモに持つ特殊なドナー(HLAハプロタイプホモドナー)の探索。他家移植医療に必要な歯髄細胞コレクションを構築し、公的バンクや営利企業を通じて研究用・臨床用に広く提供する。
・世界規模の歯髄細胞収集;日本人とはHLAが異なり、民族的な多様性が高いハンガリーと協力し、世界規模の歯髄細胞コレクションを構築する。
・iPS細胞の誘導:京都大学のiPS細胞研究所と連携して、日本人iPS細胞ストック*7の充実に貢献する。
・再生医療に携わる人材の育成:再生医療分野で活躍する認定医や臨床培養士の教育を通じて、未来の医療に貢献する。

 

※1.”The homeobox gene DLX4 promotes generation of human induced pluripotent stem cells”
論文著者:玉置 也剛1, 高橋 和利2, 青木 仁美3, 飯田 一規1, 川口 知子1, 畠山 大二郎1, 位田 雅俊4, 帖佐 直幸5, 石崎 明5, 國貞 隆弘3, 柴田 敏之1, 五島 直樹6, 山中 伸弥2、手塚 建一3※1.”The homeobox gene DLX4 promotes generation of human induced pluripotent stem cells”
1 岐阜大学大学院医学系研究科 口腔病態学  2 京都大学iPS細胞研究所
3 岐阜大学大学院医学系研究科 組織・器官形成分野
4 岐阜薬科大学薬学部 薬物治療学研究室   5 岩手医科大学歯学部 口腔生化学講座
6 国立研究開発法人産業技術総合研究所 創薬分子プロファイリング研究センター
掲載雑誌:SCIENTIFIC REPORTS, 4; 7283, 2014 (DOI: 10.1038/srep07283)
論文公開URL:https://www.nature.com/articles/srep07283
※2. 「人工多能性幹細胞の作製方法」、特願2015-534283, PCT/JP2014/072564(優先権:特願2013-176647)
※3.国際公開番号WO2015030111
※4.米国特許:US 9890360 B2
※5.Takeda T et al. : Characterization of Dental Pulp Stem Cells of Human Tooth Germs. J.Dental Res. 87; 676-681, 2008
※6.Tamaoki N et al.: Dental Pulp Cells for Induced Pluripotent Stem Cell Banking J.Dental Res. 89; 773-778, 2010
※7.Okita K et al.: A more Efficient Method to Generate Integration-Free Human iPS Cells. Nature Methods. 8; 409-412, 2011
※8.効率的な人工多能性幹細胞の樹立方法、特許第5553178号, PCT/JP2008/068320
※9.HLAは白血球の型で、人は両親から異なる3種類のHLAのセット(ハプロタイプ)を受け継ぎ、通常の人は6種類のHLAを持つ。両親から同じ3種類のHLAハプロタイプを受け継いだ子のHLAは見かけ上3種類になる。HLAが3種類だけの人は、「HLAハプロタイプホモドナー」と呼ばれ、もう一方のHLAハプロタイプに関わらず、その3種を含むHLAハプロタイプを持つ人に移植しても拒絶反応が起きにくいため、このような細胞は他家細胞移植医療に適する。日本人に多いHLAハプロタイプホモiPS細胞が14種類揃うと、日本人の約50%に対して他家iPS細胞移植医療が可能になると考えられ、京都大学を中心に提供準備が進められている。

【研究者プロフィール】
手塚 建一(Tezuka, Ken-ichi)プロフィール
岐阜大学大学院医学系研究科 組織・器官形成分野 准教授、歯学博士
<略歴>
1983年~1987年 京都大学 理学部 生物物理学教室卒業
1991年〜1994年 明海大学 歯学部 助手
1994年〜1997年 Merck研究所 ポスドク研究員
1997年~2001年 東京理科大学生命科学研究所 講師
2002年4月~2007年3月 岐阜大学大学院医学系研究科 助教授
2004年10月〜2008年3月 科学技術振興機構さきがけ研究員(兼任)
2007年~現在 岐阜大学大学院医学系研究科 准教授