国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学

プレスリリース

2016年11月29日
Press Release

近赤外光で物質を高速判別する方法 初の動画物質判別をデモ展示、岐阜大学工学部 加藤邦人准教授が画像認識分野の研究会「ViEW2016」で12月9日に発表

自動車の安全走行支援システムや自動運転の高性能化、工場の高精度な異物混入防止等に応用可能

国立大学法人岐阜大学 工学部電気電子・情報工学科の加藤邦人 准教授は、近赤外光を用いて物質を従来の画像判別法よりも高速で判別する方法を開発し、昨年特許出願をしました。このたび、本研究について実環境下(暗室外)での実験に成 […]

国立大学法人岐阜大学 工学部電気電子・情報工学科の加藤邦人 准教授は、近赤外光を用いて物質を従来の画像判別法よりも高速で判別する方法を開発し、昨年特許出願をしました。このたび、本研究について実環境下(暗室外)での実験に成功し、さらに動画による物質判別にも成功しました。これらの開発成果を、12月8日、9日にパシフィコ横浜で開催される画像認識(コンピュータビジョン)分野で国内有数のワークショップ「ViEW2016」で発表(12月9日)します。また同会場で初めて動画による物質判別のデモ展示を行います。本研究成果は、将来的に自動車の安全走行支援システムや自動運転システムの高性能化、工場等における高精度な異物混入防止等への応用が期待されます。
図1 近赤外線の波長と物質による反射率の違い

図2 3種類の物質を判別
自動車の走行安全システムや自動運転システムにおいては、道路(アスファルト)、コンクリート、植物、歩行者(人の肌や衣服の布)などを判別する必要があります(図3)。現在、一般にこの判別は、対象の「形状」を認識することにより行われています。しかし加藤准教授は、「物質」の判別という観点からのアプローチに成功しました。

近赤外光を照射すると、物質特有の反射特性を示す物質があります(図1)。肌は、肌の色が違っても970nm周辺の光を吸収し、植物の葉に含まれる葉緑体は近赤外光を強く反射します。加藤准教授はこの特性を利用して、様々な波長の近赤外線画像から、それぞれの物質の反射率をもとに高速で判別する方法を開発しました。近赤外光の反射検知と同時に物質を判別するため、既存の画像解析法よりも高速で処理できること、夜間でも物質を判別できることが特長です。また、可視光の色が違っても物質の判別が可能です。今回は人の肌、植物、アスファルトの3物質を判別する方法について発表します。
図3 自動車の運転において判別が必要な物質 図4 PLS回帰分析を2クラス分解に適用
加藤准教授は、近赤外線の波長650nm~1000nmを2nm間隔ずつの176波長のハイパースペクトル画像から、それぞれの波長における物質の反射率の違いを機械学習によって学習し、高精度に物質判別ができるような方法を開発しました。同時に、判別に最適な波長を導き出しました(図5)。機械学習法にはPLS回帰分析を用いました。PLS回帰分析は説明変数xと目的変数yの相関が最大になるように圧縮軸を決定する回帰分析手法で、特徴量が低次元に圧縮され、精度の高い回帰式が得られます。目的変数に、例えば「肌」を+1(ポジティブクラス)、「肌以外の物質」を-1(ネガティブクラス)と振って分析を行うと、ポジティブクラスとネガティブクラスが最も分離されるように圧縮軸が決定されます(図4)。その結果、「肌」と「肌以外の物質」の2つのクラスの識別ができるようになります。同様に他の物質についてもクラス分類を作成します。また、PLS回帰分析の際に得られるパラメーターから、各特長(各波長)の重要度を表すVIP値を算出し、この値から物質判別に最適な波長を機械学習によって導き出しました。その結果、3物質をわずか5波長によって判別する方法を確立しました(図2)。このことにより、より低コストで高速な物質判別システムを実現する可能性が示されました。

図5 物質判別に最適な波長を求める方法

本研究は近赤外線の反射検知と同時に物質を判別するため、既存の形状認識に基づく画像解析法よりも高速に処理でき、夜間でも物質を判別することができます。また、近赤外光の反射情報を用いているため、例えば服の色の違いなどのような可視光の色の違いに影響されない判別が可能です。本研究成果は、将来的に自動車の安全走行支援や自動運転システムの高精度化、工場等の高精度な異物混入防止等への応用が期待されます。
【ViEW2016について】
主催:公益社団法人 精密工学会 画像応用技術専門委員会
日時:2016年12月8日(木) 8:30~18:15、12月9日(金) 8:50~18:30
会場:パシフィコ横浜 アネックス・ホール(横浜市西区みなとみらい1-1-1)
加藤邦人准教授は「近赤外物質判別法における最適波長選択と実環境下への応用」と題して 12月9日(金)13:45~15:10 オーガナイズドセッション6(OS6-H1)での発表と同日15:20~16:50 インタラクティブセッション2(IS2-11)での展示発表を行います。
※ViEW2016へのご取材は直接会場にお越しください

【特許情報】発明名称:「物質判別に用いる近赤外画像撮像用の波長決定方法および近赤外画像を用いた物質判別方法」、出願人:国立大学法人岐阜大学、発明者:加藤邦人,服部哲也、出願日:2015年9月9日、出願番号:特願2015-177230

【加藤 邦人(かとう くにひと) プロフィール】
岐阜大学 工学部 電気電子・情報工学科 准教授、博士(情報科学)
<略歴>
生年月日:1971年2月18日
1994年 中京大学情報科学部認知科学科卒業
1996年 中京大学大学院情報科学研究科修士課程修了、同大学院博士課程入学 岐阜大学工学部 助手
2007年 岐阜大学工学部 助教
2009年 岐阜大学工学部 准教授
2011年 メリーランド大学コンピュータビジョンラボラトリ客員研究員
2012年 岐阜大学工学部 准教授、現在に至る