国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学

プレスリリース

2020年2月27日
Press Release

物理ゲルの性能を付与した次世代コンクリートを開発、岐阜大学工学部 木村浩准教授と株式会社安部日鋼工業が特許申請

流動性が高く作業効率が向上、材料分離が起きない、耐久性が高い

フレッシュコンクリート※1は流動性が低ければ充填作業が難しく、流動性が高いものは高価であり「材料分離」※2しやすいことが課題です。また硬化後のコンクリートの耐久性を高めるために、気体や液体が侵入しにくい緻密な硬化体とする […]

フレッシュコンクリート※1は流動性が低ければ充填作業が難しく、流動性が高いものは高価であり「材料分離」※2しやすいことが課題です。また硬化後のコンクリートの耐久性を高めるために、気体や液体が侵入しにくい緻密な硬化体とする必要があります。このたび、岐阜大学工学部化学・生命工学科の木村浩准教授と、プレストレスト・コンクリートの設計施工等を手掛ける株式会社安部日鋼工業は、これらの課題を解決する、物理ゲル※3の性能を付与した次世代コンクリートを開発し、国内特許を出願しました。今回開発した新素材は、流動性が高く作業効率が高い、材料分離が起きない、耐久性が高いという特長があります。今後、木村准教授をはじめとする岐阜大学と株式会社安部日鋼工業はこの特許技術を実用化した上で、様々な企業や機関と提携し国内外に普及させることを目指しています。

 

≪本発明による物理ゲル性能を付与した次世代コンクリートの特徴≫
【フレッシュコンクリート】
・適度な粘性を有し、硬化前の状態であっても形状を保持できる
・振動を与えると流動性が高くなり、施工の作業効率が高くなる
・材料分離が起きない
【硬化後コンクリート】
・クレイナノシートが水分を取り込んでいるため、コンクリート内側からも水和が進み、継続的な水和反応が期待され、従来のコンクリートよりも硬化体組織が緻密となり、耐久性が高くなる

 

フレッシュコンクリートに物理ゲル性能を付与する方法として、セメントに粘土鉱物であるクレイナノシート(合成ヘクトライト、合成スティーブンサイト、合成サポナイト及びこれらの変性品で、直径が10 m未満のナノシート)を、少量混ぜます。
クレイナノシートが水分を取り込むことで、組成物全体の保水力が高まり、硬化前の状態であっても形状を保持でき、振動を与えると流動性が高くなるという性質を持ちます。
クレイナノシートの混合条件を変えることで、フレッシュコンクリートの流動性を調整することもできます。

クレイナノシートは微細な薄片状の形状をしており、水中でのナノシートの平面部分は負の電荷、端の部分は正の電荷を帯びています(図1参照)。ナノシート間で静電気的な引力・斥力の相互作用が生じ、三次元的なネットワーク構造を形成します(図2左)。

クレイナノシートが含まれる物理ゲルを振動させると、ネットワークを形成していたナノシートがバラバラになり、流動性が高くなります(図2右)。振動を止めると、再びネットワークを形成し、瞬時にゲル化します(図2左)。

【クレイナノシートを使用したコンクリートの効果】
「物理ゲル」という斬新な性能を付与した次世代コンクリートを開発しました。主な効果は以下3点です。

1)生産性向上
クレイナノシートの添加量および振動条件を変化させることにより、フレッシュコンクリートのレオロジー特性を自在にコントロールでき、材料分離を生じさせることがなく、普通コンクリートと変わらない配合条件で流動性が高いコンクリートを実現できます(図3を参照)。コンクリートの締固め作業が効率よく行えることから、コンクリート工事の生産性向上に貢献します。

2)耐久性向上
クレイナノシートはフレッシュコンクリート中の余剰な水を吸着し、コンクリート硬化後に内部から緩やかに水分を供給します。その結果、コンクリート内側からも水和が進み、継続的な水和反応が期待されます。このような内部養生効果により、コンクリート硬化体組織が従来より緻密となることなどから、耐久性が高くなります。

3)コスト削減
クレイナノシートは入手しやすい自然界由来の無機系材料であり、コンクリート練混ぜ時の添加量も少量(わずか数%)であり、投入作業も簡単なため、特別な安全対策や大掛かりな設備投資は不要です。一方、従来型の流動性が高いコンクリートに比べて単位セメント量が圧倒的に少なく、材料費を削減できます。さらに、生産性が向上するため工事に従事する建設技能労働者数も削減でき、トータルとしてコンクリート工事の生産コストを削減できます。

 

【本発明の社会経済的な意義】
本発明はフレッシュコンクリートの施工における作業効率を向上させ、建設作業における工期短縮や人件費削減につながります。また、本発明はコンクリートの耐久性を向上させ、道路・橋梁や建築物をはじめとするインフラの長寿命化につながります。

 

【研究開発の経緯】
岐阜大学は長年、研究推進・社会連携機構、産官学連携推進本部などの組織を通じて産業界との連携に努めています。木村浩准教授は産学連携の一環として、岐阜市に本社を持つ株式会社安部日鋼工業と連携し、2019年1月から共同で研究を進めてきました。物理ゲルが持つ特殊な性質を、フレッシュコンクリートの性能向上にも応用できるのではないかと考えたのが、研究開発の始まりでした。

 

【用語解説】
・「セメント」「モルタル」「コンクリート」・・・セメントはほとんどがコンクリートとして使用される。コンクリートはセメント、水、細骨材、粗骨材、混和材量から構成される。セメントを水で練混ぜたものが「セメントペースト」、これに砂(細骨材)を練混ぜたものが「モルタル」、これに砂利(粗骨材)を混ぜたものが「コンクリート」。
(参考:一般社団法人セメント協会HP)

※1「フレッシュコンクリート」・・・練混ぜ直後から、型枠内に打ち込まれて、凝結・硬化に至るまでの状態にあるコンクリートを、フレッシュコンクリートという。
(公益社団法人日本コンクリート工学会「コンクリート技術の要点’07」より)

 

※2「材料分離」・・・運搬中、打込み中または打込み後において、フレッシュコンクリートの構成材料の分布が不均一となる現象、すなわち(1)粗骨材が局部的に集中したり、(2)水分が時間とともにコンクリート上面に向かって上昇する現象をいう。前者は主に運搬・打込み中に生じ、後者は打込み後に生ずる。材料分離は、コンクリートが数pmから20ないし40 mmまでの粒径を有する固体と液体の混合物であり、さらにそれらの成分の密度がそれぞれ1.0~3.15 g/cm3と大幅に相違していることに起因している。(公益社団法人日本コンクリート工学会「コンクリート技術の要点’07」より)

 

※3「物理ゲル」・・・ゲルは架橋方法の違いにより「化学ゲル」と「物理ゲル」に分けられる。一般的なゴムなどは、高分子同士が共有結合している「化学ゲル」であり、流動させることができない。一方、水中のクレイナノシートなどは非共有結合で結合している「物理ゲル」であり、流動変形させることができる。一旦流動させても、静置すると再びゲル化するのが、「物理ゲル」の特徴である。このように、「物理ゲル」は外部刺激の有無によってゾル(液体状態)とゲル(固体状態)の二つの状態を行き来する性質がある。

 

 

【研究者プロフィール】
木村 浩(きむら ひろし)  博士(工学)
岐阜大学 工学部 化学・生命工学科 物質化学コース 准教授
岐阜大学 Guコンポジット研究センター 准教授
<略歴>
1998年、山形大学大学院工学研究科博士後期課程修了、博士(工学)。日本学術振興会特別研究員(DC1)、日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、1999年に岐阜大学へ。2007年4月から岐阜大学工学部准教授。2018年からGuコンポジット研究センターを兼任。レオロジー、コロイド界面化学に関する研究に従事。

 

【岐阜大学Guコンポジット研究センターについて】
岐阜大学Guコンポジット研究センターは、2018年(平成30年)4月に設置されました。素材の開発力を基礎として複合材料の産業利用を加速するため、52名(2020年2月現在)の学内スタッフにより、有機、無機、金属、高分子物質について、開発から、成形加工、リサイクル、材料の人体影響までをカバーする複合領域の組織体制をとり、研究開発を行っています。2019年度の活動成果は、原著論文77報・著書6編・学会等での受賞5件・特許出願14件・外部資金の獲得74件などがあります。

 

 

【会社概要】
商  号: 株式会社 安部日鋼工業
創  業: 1949年2月8日
資 本 金: 3億円
代 表 者: 代表取締役会長 髙橋 泰之
代表取締役社長 井手口 哲朗
従業員数: 515名 (2019年6月30日現在)
岐阜本社: 岐阜市六条大溝3丁目13番3号  TEL:058-271-3391(代)
東京本社: 新宿区下落合2丁目3番18号 SKビルS棟  TEL:03-5906-5621(代)
事業内容: ・橋梁、上下水道施設、鉄道軌道を中心としたプレストレスト・コンクリート(PC)*の設計施工
・PCまくらぎ等PC二次製品の製造販売・建築工事
*「プレストレストコンクリート(PC)」・・・あらかじめ(Pre)緊張材によって圧力を与えられた(stressed)コンクリート(Concrete)のこと。コンクリートは、圧縮力に対しては強いが、引張力に対してはとても弱いという弱点がある。プレストレストコンクリートはその弱点を克服する特長を有する。(参考:公益社団法人プレストレストコンクリート工学会資料)